研究領域の現状 253
藤 井 浩(准教授) (1998 年 3 月 1 日着任)
A -1).専門領域:生物無機化学,物理化学
A -2).研究課題:
a). 酸化反応に関与する金属酵素反応中間体モデル錯体の合成 b).亜硝酸還元酵素の反応機構の研究
c). 小分子をプローブとした金属酵素の活性中心の構造と機能の相関
A -3).研究活動の概略と主な成果
a). 酸化反応に関わる金属酵素の機能制御機構を解明するため,高酸化反応中間体のモデル錯体を合成し,電子構造と 反応性の関わりを研究した。オキソ鉄4価ポルフィリンπ カチオンラジカル錯体は,軸位に配位する配位子により酸 素添加反応の反応性が大きく変化する。反応性を制御する機構を解明するため,オキソ鉄4価ポルフィリンπ カチオ ンラジカル錯体の種々の物理化学的性質と反応速度の相関を検討した。その結果,反応性を制御する因子の解明に 成功した。この結果から,軸配位子によりいかにして制御されているかを解明できた。また,不斉酸化能を有するマ ンガン3価サレン錯体の反応選択性の機構を研究した。昨年度の研究で,マンガンイオンが3価から4価に酸化さ れると,サレン骨格が不斉歪みを起こすことを見出した。本年度はさらに,このサレン配位子の不斉歪みが,どのよ うに誘起されているかを検討した。種々の軸配位子をもつ不斉サレンマンガン4価錯体を合成し,結晶構造や溶液 中の構造を C D スペクトルから調べた。その結果,軸配位子の配位力の強さが,不斉歪みを制御する因子であること を見出した。
b).地中のバクテリアの中には,嫌気条件で硝酸イオンを窒素に還元する一連の酵素が存在する。これらの過程で,亜 硝酸イオンを一酸化窒素に還元する過程を担う酵素が亜硝酸還元酵素である。亜硝酸還元酵素には,銅型とヘム型 の2種類が存在することが知られている。昨年度までの銅型酵素の研究をさらに発展させるため,ヘム型亜硝酸還 元酵素の研究を行った。ヘム型亜硝酸還元酵素は,ヘム d1と呼ばれる特殊なヘムを活性部位にもつ。このヘム d1と 酵素機能の関わりを反応中間体モデル錯体から研究した。ヘム,クロリン,ヘム d1から鉄2価亜硝酸錯体を合成し, 反応性に違いを検討した。その結果,酵素と同じ配位子であるヘム d1は,ヘムの還元過程,亜硝酸イオンの結合過 程を非常に大きく促進するが,鉄に配位した亜硝酸イオンのプロトン化過程は他のヘムより遅いことが明らかとなっ た。この結果は,ヘム型亜硝酸還元酵素ではプロトン化活性は銅型酵素と比較して十分に確保できているので,よ りエネルギーを効率よく節約するためヘム d1を利用していることが示唆された。
c). 金属酵素と強く結合するシアンイオンをプローブとした金属酵素の構造・機能測定法の開発を行った。我々はこれま で,ヘムタンパク質に結合したシアンイオンの
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C ,
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N. N M R シグナルがヘム近傍の構造や水素結合ネットワークを 検索する優れたプローブであることを明らかにした。本年度は,この手法をペルオキシダーゼの変異体に適応した。 2種類のペルオキシダーゼについて,ヘム近傍のアミノ酸を置換したさまざまな変異体を作成し,水素結合ネットワー クと酵素機能の関わりを研究した。作成した変異体のシアンイオンの
13
C ,
15
N. NM R を測定した結果,各アミノ酸残 基が作る水素結合ネットワークの仕組みを解明することができた。さらに各変異体の酵素活性との比較から,ヘム近 傍の保存されたアミノ酸残基が機能発現でどのような役割をもつかを解明することができた。
254 研究領域の現状 B -1). 学術論文
T. KURAHASHI, M. HADA and H. FUJII, “Critical Role of External Axial Ligands in Chirality Amplification of trans- Cyclohexane-1,2-diamine in Salen Complexes,” J. Am. Chem. Soc. 131, 12394–12405 (2009).
A. J. MCGOWN, W. D. KERBER, H. FUJII and D. P. GOLDBERG, “Catalytic Reactivity of a Meso-N-Substituted Corrole and Evidence for a High-Valent Iron–Oxo Species,” J. Am. Chem. Soc. 131, 8040–8048 (2009).
A. TAKAHASHI, T. KURAHASHI and H. FUJII, “Effect of Imidazole and Phenolate Axial Ligands on the Electronic Structure and Reactivity of Oxoiron(IV) Porphyrin p-Cation Radical Complexes: Drastic Increase in Oxo-Transfer and Hydrogen Abstraction Reactivities,” Inorg. Chem. 48, 2614–2625 (2009).
D. NONAKA, H. WARIISHI and H. FUJII, “Paramagnetic 13C and 15N NMR Analyses of Cyanide(13C15N)-Ligated Ferric Peroxidases: The Push-Effect, not Pull-Effect, Modulates the Compound I Formation Rate,” Biochemistry 48, 898–905 (2009).
T. SATO, S. NOZAWA, K. ICHIYANAGI, A. TOMITA, M. CHOLLET, H. ICHIKAWA, H. FUJII, S. ADACHI and S. KOSHIHARA, “Capturing Molecular Structural Dynamics by 100 ps Time-Resolved X-Ray Absorption Spectroscopy,” J. Synchrotron Radiat. 16, 110–115 (2009).
A. TAKAHASHI, Y. OHBA, S. YAMAUCHI and H. FUJII, “ENDOR Study of Oxoiron(IV) Porphyrin p-Cation Radical Complexes as Models for Compound I of Heme Enzymes,” Chem. Lett. 38, 68–69 (2009).
B -4). 招待講演
H. FUJII, “Reaction Mechanism and Molecular Mechanism of Copper-Containing Nitrite Reductase,” Korea-Japan Seminars on Biomolecular Sciences—Experiments and Similations, Seoul (Korea), February 2009.
H. FUJII, “Axail Ligand Effect on Reactivity and Electronic Structure of Oxoiron(IV) Porphyrin p-Cation Radical Complex,” International Symposium on Picobiology, Hyogo (Japan), March 2009.
H. FUJII, “Functional Role of Heme d1 in Catalytic Nitrite Reduction by Heme-Containing Nitrite Reductase,” International Conference on Bioinorganic Chemistry, Nagoya (Japan), July 2009.
H. FUJII, “Functional Role of Heme d1 in Catalytic Nitrite Reduction by Heme-Containing Nitrite Reductase,” International Workshop on Metalloprotein Functions, Hyogo (Japan), July 2009.
H. FUJII, “Electronic Structure and Reactivity of Heme Complexes and Heme Proteins,” RIKEN Symposium—Molecular Ensemble 2009, Saitama (Japan), December 2009.
B -8). 大学での講義,客員
兵庫県立大学大学院生命理学研究科 ,.客員准教授 ,.2007年 2月–..
B -10).競争的資金
科研費奨励研究 (A ),.「ヘム酵素の軸配位子が多様な酵素機能を制御する機構の解明」,.藤井 浩.(1997年 –1999年 ). 上原記念生命科学財団研究奨励金 ,.「ヘムオキシゲナーゼにおける反応特異性およびヘム代謝機構の研究」,.藤井 浩.(1999年 ). 文部省科研費重点領域研究(公募研究)「生体金属分子科学」,.「
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O- N M R による銅−酸素錯体の配位した酸素の電子構造 と反応性の研究」,.藤井 浩.(1999年 ).
研究領域の現状 255 内藤財団科学奨励金 ,.「ヘムオキシゲナーゼによる位置特異的ヘム代謝機構の解明」,.藤井 浩.(2000年 ).
科研費基盤研究 ( C ) ,.「合成ヘムとミオグロビン変異体による亜硝酸還元酵素モデルの構築と反応機構の研究」,. 藤井 浩. (2000 年 –2002 年 ).
科研費基盤研究 ( B ) ,.「単核非ヘム酵素反応中間体としての高酸化オキソ錯体の合成と反応性の研究」,. 藤井 浩. (2002 年 – 2004年 ).
大幸財団海外学術交流助成金 ,.「第3回ポルフィリンとフタロシアニンに関する国際会議での研究発表」,.藤井 浩.(2004年 ). 日本学術振興会科研費基盤研究 ( B ) ,.「立体構造にもとづく基質結合サイトの再構築による酵素反応選択性の制御」,. 藤井 浩.(2004年 –2007年 ).
文部科学省科研費特定領域研究「配位空間」(公募研究),.「金属酵素のナノ反応空間における基質の配向および反応選択性 の制御」,.藤井 浩.(2005年 –2006年 ).
C ). 研究活動の課題と展望
生体内の金属酵素の構造と機能の関わりを,酵素反応中間体の電子構造から研究している。金属酵素の機能をより深く理 解するためには,反応中間体の電子状態だけでなく,それを取り囲むタンパク質の反応場の機能を解明することも重要であ ると考える。これまでの基礎研究で取得した知見や手法をさらに発展させて,酵素,タンパクのつくる反応場の特質と反応 性の関係を解明していきたいと考える。また,これらの研究を通して得られた知見を基に,酵素機能変換法の新概念を確立 できるよう研究を進めたいと考える。